しがない感想置き場

特撮番組とかアニメなどの感想を投稿します。

小説 ゲゲゲの鬼太郎~蒼の刻~

 大野木寛、井上亜樹子等テレビ本編のライターを含む、著者4名による短編集。

収録話数は全7話。掲載順に感想を。

 

骨女/山田瑞季

人間の男と妖怪とのラブコメ

作家さんは今作がデビューのようですが、地の文のセンスはちょっと合わないかも(;^_^A

常識人らしい振る舞いと、骨女の正体に感動してしまう異常性が話の中で巧く連結されず、やや唐突気味な印象を受けてしまうのがちょい痛い。

男が骨への愛故にバラバラになった骨女を元に戻したり、悪事を働いたネズミ男への罰もキャラクター性を活かしたものになっていて、巧い部分もちらほら。

 

貝稚児/井上亜樹子

井上亜子によるサイコパス少年のお話。

動物や人の「パーツ」や鮮血に魅力を見出し、殺傷行為を「趣味」の類として楽しんできた少年が、両親から否定されたことで、自己を見失っていく恐怖に苦悩するお話という印象。

話の中で少年の独白が何度か挿入されるのですが、「パーツ」集めに没頭し、血の色に感動していた少年の無邪気な心境(爪を剥かれて叫ぶ女の子を、「指が赤くなって」喜んでいると解釈しており、「悪気」というものが感じられない)から、母親から悪魔として地下牢に閉じ込められ、頭の中の「虫の羽音」に苦しむ姿、そして、自己と他者が一体となった感覚において、「頭の中の虫」を追い出すために母親に手にかけてしまう「生きる為の殺戮」に縋りつくという変遷が気味の悪さや不快感を伴わせつつ、一人の少年が追い込まれ、「壊れていく」過程を本人の視点から描いているだけに、感情移入の対象として成立させているのは素晴らしい。

 

個人が個人である為には、他人や社会からの承認が必要になるし、そこから外れた者は必然的に人外=妖怪になるしかないというのは、井上さんの過去の作品でも何度か出てきてる要素で、人間としてしがみつくために自分を捨てて別のものになるか(「ずんべら霊形手術」)それとも自分のまま生きて社会の中で居場所を見出すか(「なりすましのっぺらぼう」)という既存作品のまとめ方に対して、「人間の中で生きていく上で、絶対に承認されない個人」を通じ、人間であり続けることの限界を描いているというべきか。

 本人にとっては悪気はなくても、それが暴力や痛みを伴わせるものである以上、受け入れられることは絶対にないし、他人から否定された時、自分の存在に自信が持てず、自分ではないものに飲み込まれる不安を覚え(作中に頻発する「虫の羽音」というのはそのことか)そこから逃れる為に、自分を飲み込んだ自分であって自分ではないものを否定し、自分を守ろうとするのですが、自分と言う存在が飲み込まれたままである以上、何度も殺戮を繰り返すしかないというのがエグい。

受け入れられたい自分の苦痛を他者に対して表明したい気持ちを抱えるようなマナへのアプローチや、馴染んでいたからこそ、本当の自分を否定されるのを恐れ、自分から関係を壊しにいったようにも思われる振る舞い等、自分の軸を持てない存在は、築き上げてきた関係をも守り通すことさえできないと言わんばかりの描写もまた哀しい。

 

最後は、少年の苦悩と向き合ったマナの言葉を受け、「母さんを・・・せめて父さんを殺す前に出会っていれば変われたかもしれない」と言い残し、姿を消してしまうのですが、 これは「本当に変われたか」というよりは、自分と向き合ってくれた者に対する感謝と別れの告白と見るべきでしょう。

マナの言葉や支えを受けても、尚自分の「罪」を償おうとしなかったことを踏まえると、最後まで少年はその罪の根底にある「純粋な自分」を変えることへの抵抗感を払拭できず、その結果として人間を捨て去ったと言えるのですが、そうなれば、マナと出会ったのが例え両親から否定される前であっても、彼は同じ選択をしていたかと。

一方、自分自身を完全に認めてくれなくても、自分を気遣ってくれたマナの優しさは、彼にとっては「人間」への未練を断ち切る糧として作用し、だからこそ、「ありえないけどあってほしかった今」を素直に表明することで「絶対に相容れない」という事実を突き付ける。

「改心の必要があった人間が、自分から人間であることをやめる=他者との交流を自分から否定する=『純粋な』妖怪になる」という、見ようによっては投げっぱなし同然のオチなのですが、一人の少年が自分と向き合った上で、向き合ってくれた「友達」の優しさを励みに答えを出したという構成は、ある意味では救いとして映るのが後味の悪さを程よく薄めてくれました。

ゲスト妖怪は、若干コミュ障気味の性格が気になるも、最後まで律の為に尽くしたのですが、律を承認し、受け入れる役割を他人に任せてしまったようにも見え、 こちらもこちらで哀しい役どころ。

 

欠点としては、状況的に編入手続きがザルすぎるマナの中学校が気になる所。

収録作の中で一番読み手を選ぶ代物だと思います。個人的には満足。

 

 ぬりかべ/永富大地

アイデンティティに苦悩するぬりかべのお話。

ただのよっぱらいと思い込んでいた子泣き爺の「酒」への思い入れと生き方がぬりかべに対して語られるのですが、途中昔出現した魔女を、アニエスとの比較で「ひどいクソババア」呼ばわりする私怨と色ボケがツボ(笑)

不動を象徴するような壁の妖怪が、自分の意思で一歩を踏み出していくという着眼も悪くないですし、ゲゲゲの森周りの描写も好き。

 

3・11の獏/大野木寛

好きな人は好きなんだろうけど・・・

出来云々というよりも、実在の出来事を大々的に取り上げる内容というのは感情の部分で合わない。

 

妖怪おとろし/大野木寛

虐待の現実から逃避をしていた女の子が、虐待から解放されて自分を偽らずに済んで、スイーツの味を理解する話。

虐待から解放されたからハッピーみたいなオチがついていたと思うのですが、それまでの父親への想い等を整理し落とし込んでいく過程が薄い気も。

 

みかん/大野木寛

遠慮していたら世の中の本質は却って見極められないと言わんばかりのねずみ男無双回

みかんを巡る駆け引きの流れは正直それほどなのですが、最後のねずみ男が美味しかったので、終わりよければなんとかという印象。

 

名無しの詩/大野木寛

名無しファン必読の病み闇ポエム集

 

 

貝稚児>ぬりかべ>みかん>骨女>妖怪おとろし>名無しの詩>3・11の獏

という満足度。

一冊の本に複数の作家の話が載ってると、どういう傾向の作品が好きなのかというのが、改めてわかるような。 

一番好きな「貝稚児」の感想がエラく長いのは、単にこっちのまとめ方が下手なだけですが(;^_^A